Scrapbox はコンテンツ志向を阻害する
Scrapboxは長く濃密な文章を書くことには向いていません。
逆に、常に細分化とリンク作成を要求するのがScrapboxだといえます。
以下、主に書籍を取り扱う図書館学とScrapboxを比較してみましょう。書籍は明確にコンテンツ主義的であるといえます。書籍の性質からして外部の情報源を指し示す能力はScrapboxよりも制約されています。ネットを使わないので、当然といえば当然ですね。そのかわり、ネットでよく見るものにくらべて、書籍にはまとまった情報があります。 Scrapboxは逆に、HTMLのアンカーリンク機能を存分に利用し、短く、リンクの多い記事を書くことを推奨しています。 Scrapboxの良い点はなんでしょうか? その一つは、スケールすることを重視している点ですね。人数が増えても、ページが増えても大丈夫。/shokai/階層整理型WiKiはスケールしないでは、Scrapboxの管理方法が従来の階層型の整理方法に比べてスケールできる(見込みがある)ことが説明されています。 しかし、Scrapboxも(当然ですが)万能ではないことが、yuki_minoh.iconが日々利用している中でわかってきました。
一言で言えば、Scrapboxは利用者をいわば「メタデータ作成者」としてみなしています。メタデータとは、ここでは「分類(+概要把握)のために作成される短い記述」のこととします。Scrapboxにはメタデータを作る上でたくさんの配慮がなされています。
小さな文書同士の関係性を宣言し、より大きく複雑な情報構造を表現する為の物です
1つの大きなページの中で見出しを作り、長文を構造化する為の物ではありません Scrapboxは、小さな断片のような記事を多数作成することを主眼に置いていると考えてよいでしょう。それらをつなげることで、「より大きく複雑な情報構造を表現する」のです。
しかし、ここに落とし穴があります。Scrapboxにはコンテンツとメタデータを区分する考え方がないために、いきおい「すべてのコンテンツをメタデータとみなし、細かく区分しよう」ともなりがちです。
そもそも、Scrapboxはスケールさせるためにたくさんの配慮がされていますが、それでは図書館はスケールしなかったのでしょうか?そうは思えません。何万冊もの蔵書を抱える図書館はたくさんあります。
簡単にいえば、膨大な図書を管理するための専門職として司書が設けられ、管理に専念してきたのです。そしてそこで得られた管理と分類におけるノウハウは図書館学という点で参照されてきたのです。これは万人による管理を目指すScrapbox、もといWikiとは大きく異なる点です。 代表的なものに、図書分類基準というものがあります。日本図書分類 (NDC)では、国内の図書館を対象に、そこでどのように管理すればよいのかを定め、定期的に見直し、改版してきたのです。他に国際図書分類などいろいろあります。これらのよくメンテナンスされた分類法を参照することで、非常に幅広いトピックも一定の妥当性をもって整理していくことができるのです。 図書館では、司書がメタデータの制作者であり、また、分類する者でもあるのです。このようにメタデータの制作と情報の分類作業が特定の役職に集中するため、「どう分類すればいいのか?」という知識が効果的に伝達・蓄積できるのだといえます。
Scrapboxでは、ある意味ではこのような「分類の知」を認めていないといえます。どれをどこに整理すれば利用者が使いやすいのか?という点で得られた人類の蓄積を、Scrapboxのなかではうまく利用できない仕組みになっていると言えるでしょう。
筆者はScrapboxを使っていて、ここには濃密で中身のある文章を書くことが難しいと感じるようになってきました。習熟すればするほど、中身を細分化し、リンクを張り、貼ったリンクに飛ぶ、ということに夢中になり、結局何が書けたのかが曖昧になってしまうのです。それだけでなく、長文を書くということは結構重要だったのだなと気づきました。
アウトプットとはなんでしょうか。その第一に挙げられるものはやはり文字を書くことです。yuki_minoh.iconはよく、長く濃密な文章をなるべく多く生産したい、という欲求に駆られます。また、長く濃密な文章を没頭して書いているときの感覚は心地よいものです。長く濃密な文章を適切なツールで没頭して書く、という体験が、コミュニティの中で深い情報交換をするために、必要なものだったのではないでしょうか?
yuki_minoh.iconは、結果的に、Scrapboxでなにもかも済まそうとすると、長文執筆の習慣が失われたり、それになかなか集中できないで時間を浪費したり、ということが増えがちだという結論になりました。Scrapboxをむやみに導入すると、コミュニティ内のアウトプットの総量を著しく減じることもあるのではないかと心配しています。
コミュニティに活発な情報交換を望むとき、そこに必要なのはスケーラブルなWikiではなく、長文執筆にこそ快適なツールだったのかもしれません。
私たちはときに情報の「提出」「交換」を必要とします。しかしネットワーク構造そのものは提出・交換に向きません。そのようなメタデータではなくコンテンツが多く必要になる環境では、Scrapboxはなるべく使わないほうが賢明なのかもしれませんね。
Scrapboxは、「あなたもメタデータを書け」という隠されたメッセージを発しています。それは
コンテンツとメタデータの区別がない
内容を細かく細分化するように推奨する
からです。
P.S. yuki_minoh.iconはScrapboxは好きですし、これからもある程度は使い続けるでしょう。
参考